§1 上代語連体形「見る」の遷移過程
上代語の連体形「見る」の語素構成は、動詞語素MYに、活用形式付加語素YRYと、動詞連体形の活用語足AUが続いたもの。
《連体》 見る=MY+YRY+AU→MYYRYAU
父音素にYYRYAUが続く場合、母音部YAUでは、末尾のUは顕存し、YAは潜化する。
Rは、その直後のYが潜化したので、双挟潜化されずに顕存する。Rの直前で音素節が分離する。
→MYYRyaU→MYY ―RyaU
母音部YYでは、後のYは顕存し、前のYは潜化する。
→MyY ―RyaU=MY ―RU=み甲る
§2 「居」の連体形が上代語で「ゐる」になる遷移過程
「居」の連体形「居る」の語素構成は、動詞語素WYに、活用形式付加語素YRYと、動詞連体形の活用語足AUが続いたもの。
《連体》 居る=WY+YRY+AU→WYYRYAU
上代語では、WYYRYAUを含む音素配列では、WYYとYAUは呼応潜顕する。後者では末尾のUは顕存し、YAは潜化する。これに呼応して、前者では、末尾のY(R直前のY)は潜化し、他は顕存する。
Rは、その前後のYが潜化したので、双挟潜化されずに顕存する。
→WYyRyaU→WYy ―RyaU=WY ―RU
WYはワ行・Y段の音素節「ゐ」になる。
=ゐる
§3 近畿語上二段連体形「過ぐる」と東方語上二段連体形「生ふ」の遷移過程
【1】近畿語上二段連体形「過ぐる」の遷移過程
《連体》 屋戸ノ梅ノ 散り過ぐる〈須具流〉まで[万20 ―4496]
上二段連体形「過ぐる」の語素構成は、動詞語素「過GW」に、YRYと、連体形活用語足AUが続いたもの。
過ぐる=過GW+YRY+AU→すGWYRYAU
上代近畿語では、WYRYAUを含む音素配列では、WYとYAUは呼応潜顕する。後者では、末尾のUは顕存し、YAは潜化する。これに呼応して、前者では、末尾のYは潜化し、他は顕存する。
Rは、その前後のYが潜化したので、双挟潜化されずに顕存する。
→すGWyRyaU→すGWy ―RyaU=すGW ―RU=すぐる
【2】東方語上二段連体形「生ふ」の遷移過程
東方語では、上二段連体形の末尾が「る」にならないことがある。
《連体》 生ふ〈於布〉楚[万14 ―3488東歌]
生ふ=生PW+YRY+AU→おPWYRYAU
東方語では、WYRYAUで呼応潜顕が起きず、YはRを双挟潜化することがある。
→おPWYrYAU=おPWYYAU
母音部WYYAUでは、末尾の完母音素Uは顕存し、他は潜化する。
→おPwyyaU=おPU=おふ