§1 万葉集では「等」「登」は清音を表す仮名
「世ノ人ノ 尊び願ふ 七種ノ 宝モ吾れは」で始まる万5 ―904には清音「ト」や濁音「ド」を表す仮名「登」「等」「杼」が数多く用いられる。それらの仮名の清濁の識別について述べる。
濁音「杼」は「立てれドモ〈立礼杼毛〉」「をれドモ〈居礼杼毛〉」「たドき〈多杼伎〉」「をドり〈乎杼利〉」の4例に用いられる。
清音について。「等」は次の4例(踊り字を含む)に用いられる。「人ト〈比等〉」「助詞ト〈「比等々奈理」の踊り字〉」「神ノまにまにト〈等〉」「言ふコト〈許等〉」。
清音「登」は、全8例の内、「床〈登許〉」「共〈登母〉に」「寝ヨト〈登〉」「寝むト〈登〉」「見むト〈登〉」「手に取り〈登利〉」「飛ばしつ〈登婆之都〉」の7例は確実に清音に用いられている。
上に挙げた15例の「杼」「等」「登」では、「杼」は濁音、「等」「登」は清音であって、清音・濁音が混交されることはない。
では、残る1例にある「登」は清音「ト」か濁音「ド」か。
吾れ乞ひ祷メ登。
「祷メ」の原文は「能米」であり、「米」は「メ乙」だから、「祷メ」は已然形である。このため、“動詞已然形に続くのは濁音「ド」であって、清音「ト」ではない。だから、「祷メ」に続く「登」は濁音「ド」だ”と思う人も多いだろう。『日本古典文学大系万葉集二』も沢瀉久孝『万葉集注釋巻第五』305頁もこの「登」を濁音「ど」と記す。
しかし、「登」は一般に清音「ト乙」を表す仮名である。『日本古典文学大系万葉集一』の「奈良時代の音節及び万葉仮名一覧」では、「登」は清音「ト乙」の項に記され、濁音「ド乙」の項には記されない。
してみれば、“動詞已然形に続くのは濁音「ド」”という前提が誤りなのであって、「祷メ登」の「登」は清音「ト」と読むのが正しいとも考えられる。
万904の用字法によって判定しよう。万904では、「ト」「ド」を表す仮名「等」「登」「杼」は合わせて16例あるが、そのうちの15例で清濁が正しく書き分けられている。この文献事実からすれば、残る「祷メ登」の「登」も清音「ト」だと考えるのが順当である。
動詞已然形に続く「ト」は清音のままのこともあり、濁音「ド」に変化することもあると考える。
§2 四段動詞已然形語尾の母音部はYO¥
【1】四段動詞已然形の語尾は近畿語では「エ乙・え丙」段になるが東方語では稀に「え甲」段・「お丙」段にもなる
[近畿] 近畿語では「エ乙・え丙」段になる。
道問∧乙ば〈斗閉婆〉 直には宣らず[履中記歌77]
待てド〈麻?騰〉来鳴かぬ ほトトぎす[万19 ―4208]
一日モ妹を 忘れて思∧乙や〈於毛倍也〉[万15 ―3604]
[東方1] 東方語では四段動詞已然形の語尾は稀に「え甲」段になる。
昼解け甲は〈等家波〉 解けなへ紐ノ[万14 ―3483東歌]
[東方2] 東方語四段動詞已然形の語尾は稀に「お丙」段になる。
吾ロ旅は 旅ト思ほ丙ト〈於米保等〉[万20 ―4343防人歌]
【2】四段動詞已然形語尾の母音部はYO¥
四段動詞已然形語尾は〔近畿語では「エ乙・え丙」段になるが東方語では稀に「え甲」段になる〕と変化するが、これは四段動詞命令形語尾が〔近畿語では「え甲・え丙」段になるが東方語では稀に「エ乙」段になる〕と変化するのと対照的である。そして動詞命令形の活用語足はYOYである。そこで四段動詞已然形の母音部の本質音はYO¥ではないかという想定が浮かぶ。
YO¥だとするなら、東方語の四段動詞已然形語尾が「お丙」段になる経緯も説明できる。
[東方2] 思ほト=思P+YO¥ト→おメPYO¥ト
東方語では、母音部YO¥で、完母音素Oのみが顕存し、Y・¥は潜化することがある。
→おメPyOjト=おメPOト=おメほト
そこで四段動詞已然形語尾の母音部はYO¥だと推定する。
近畿語「問∧ば」「待てド」と東方語「解けは」の遷移過程を説明する。
[近畿] 問∧ば=問P+YO¥ば→とPYO¥ば
YO¥は融合する。近畿語では{YO¥}の¥は潜化する。{YOj}は「エ乙・え丙」を形成する。
→とP{YO¥}ば→とP{YOj}ば=と∧乙ば
待てド=待T+YO¥ド→まT{YO¥}ド→まT{YOj}ド=まてド
[東方1] 解けは=解K+YO¥は→トK{YO¥}は
東方語では{YO¥}の¥は顕存することがある。{YO¥}は「え甲・え丙」を形成する。
=トけ甲は
§3 動詞已然形の接続用法と コソや用法
【1】動詞已然形の接続用法と コソや用法
四段動詞已然形語尾の母音部についてはこれをYO¥とすることで説明できる。残る問題は、語尾直後の音素節の清濁についてである。
已然形語尾直後の助詞が「は」「ト」である場合には、清音のままのこともあり、濁音「ば」「ド」になることもある。他方、直後の助詞が「コソ」である場合は、その「コ」が濁音になることはない。この相違はどうして生じるのか。
これを説明するためには動詞已然形を二類に分ける必要がある。
動詞已然形が助詞「は」「ト」「トモ」「ば」「ド」「ドモ」に上接する用法を動詞已然形接続用法と呼ぶ。
動詞已然形が助詞「や」に上接して反語を表す用法と、助詞「コソ」に上接して理由を強調する用法と、助詞「コソ」を結ぶ用法をまとめて已然形コソや用法と呼ぶ。
【2】四段動詞已然形接続用法の用例とその遷移過程。
(1)四段動詞已然形接続用法の用例。
[上代1] 已然形接続用法に続く助詞の初頭音素節が濁音である用例。
《四段》 海処行ケば〈由気婆〉 腰難む[景行記歌36]
時待つト 吾れは思∧ド〈於毛倍杼〉[万15 ―3679]
人は言∧ドモ〈易陪廼毛〉 手向かひモせず[神武紀即位前 紀歌11]
[上代2] 已然形接続用法に続く助詞の初頭音素節が清音である用例。
《四段》 折りかざしつつ 遊∧”トモ〈阿蘇倍等母〉 いやめづらしき 梅ノ花かモ[万5 ―828]
(2)動詞已然形接続用法の活用語足と四段動詞已然形の遷移過程。
動詞已然形接続用法の活用語足はYO¥Mだと推定する。
[上代1] 接続用法に続く助詞の初頭音素節が濁音になる遷移過程。
《四段》 行ケば=行K+YO¥M+P∀→ゆKYO¥MP∀
已然形直後が濁音「ば」になるのはMPが融合するからである。
→ゆK{YO¥} ―{MP}∀→ゆK{YOj} ―B∀=ゆケ乙ば
《四段》 思∧ド=思P+YO¥M+TO→おモPYO¥MTO 已然形直後が濁音「ド」になるのはMTが融合するからである。
→おモP{YO¥} ―{MT}O=おモP{YOj} ―DO=おモ∧乙ド
[上代2] 接続用法に続く助詞の初頭音素節が清音になる遷移過程。
《四段》 遊∧”トモ=遊B+YO¥M+TO+モ→あそBYO¥MTOモ
MとTOの間で音素節が分離する。音素節末尾のMは潜化する。
→あそB{YO¥}M ―TOモ→あそB{YOj}m ―トモ
=あそ∧”乙トモ
【3】四段動詞已然形コソや用法の用例とその遷移過程
(1)四段動詞動詞已然形コソや用法の用例。
① 已然形が助詞「や」に上接して反語を表す用法。
《四段》 常し∧に 君モ逢∧やモ〈阿閉椰毛〉[允恭紀11年 紀歌68]
② 已然形が助詞「コソ」に上接して理由を強調する用法。
《四段》 後モ逢はむト 思∧コソ〈於毛倍許曽〉 今ノ現かモ うるはしみすれ[万18 ―4088]
③ 已然形が係助詞「コソ」を結ぶ用法。
《四段》 う∧”しコソ 問ひたま∧乙〈多麻閉〉 真コソに 問ひたま∧乙〈多麻閉〉[仁徳記歌72]
(2)動詞已然形コソや用法の活用語足と四段動詞已然形の遷移過程。
動詞已然形コソや用法の活用語足はYO¥だと推定する。
① 逢∧や=逢P+YO¥+YA→あPYO¥ ―YA
→あP{YO¥}や→あP{YOj}や=あ∧乙や
② 思∧コソ=思P+YO¥+コソ→おモP{YO¥}コソ
→おモP{YOj}コソ=おモ∧乙コソ
③ 賜∧=賜P+YO¥→たまP{YO¥}→たまP{YOj}=たま∧乙
§4 上甲段・上二段の已然形の遷移過程
【1】上甲段・上二段の已然形接続用法の遷移過程
[上代1] 接続用法に続く助詞の初頭音素節が濁音になる遷移過程。
《上甲》 葛野を見れば〈美礼婆〉 百千足る 屋庭モ見ゆ[応神記歌41]
《上甲》 見れば=MY+YRY+YO¥M+P∀→MYYRYYO¥MP∀
音素配列YRYYO¥では、YO¥は融合する。{YO¥}の¥は潜化する。
→MYYRY{YO¥} ―{MP}∀→MYYRY{YOj}ば
Y{YOj}では、融合音{YOj}は顕存し、その直前のYは潜化する。
→MYYRy{YOj}ば
YYでは後のYは顕存し、前のYは潜化する。
Rは、その直後のYが潜化したので、双挟潜化されずに顕存する。
→MyY ―Ry{YOj}ば→MY ―R{YOj}ば=み甲れば
《上二》 旅にして 妹に恋ふれば〈古布礼婆〉[万15 ―3783]
恋ふれば=恋PW+YRY+YO¥M+P∀→こPWYRYYO¥MP∀
WYとYYO¥は呼応潜顕する。後者ではまずYO¥が融合する。{YO¥}末尾の¥は潜化する。
→こPWYRY{YO¥}{MP}∀→こPWYRY{YOj}ば
Y{YOj}では、融合音{YOj}は顕存し、その直前のYは潜化する。これに呼応して、WYでは、後方にあるYは潜化し、Wは顕存する。
→こPWy ―Ry{YOj}ば→こPW ―R{YOj}ば=こふれば
[上代2] 接続用法に続く助詞の初頭音素節が清音になる遷移過程。
《上甲》 立山に 降りおける雪を 常夏に 見れトモ〈見礼等母〉飽かず
[万17 ―4001]
この他、「見礼跡」[万1 ―36]・「見礼常」[万1 ―65]も「みれト」だと考える。
見れト=MY+YRY+YO¥M+TO→MYYRYYO¥MTO
→MYYRY{YOj}M ―TO→MyY ―Ry{YOj}mト
=MY ―R{YOj}ト=み甲れト
【2】上二段の已然形コソや用法の遷移過程
《上二》 恋ふれコソ〈恋礼許曽〉 吾が髪結ひノ 漬ちてぬれけれ
[万2 ―118]
恋ふれコソ=恋PW+YRY+YO¥+コソ→こPWYRYYO¥コソ
→こPWYRY{YO¥}コソ→こPWy ―Ry{YOj}コソ
=こPW ―R{YOj}コソ=こふれコソ
§5 サ変・カ変の已然形の遷移過程
【1】サ変の已然形接続用法の遷移過程
[上代1] 接続用法に続く助詞の初頭音素節が濁音になる遷移過程。
《サ変》 枕かむトは 吾れは為れド〈須礼杼〉[景行記歌27]
動詞語素SYOYに、YWRYと、活用語足YO¥Mと、TOが続く。
為れド=SYOY+YWRY+YO¥M+TO
→SYOYYWRY{YOj} ―{MT}O
YOYYWとY{YOj}は呼応潜顕する。後者では{YOj}は顕存し、その直前のYは潜化する。これに呼応して、前者では、Wは顕存し、他は潜化する。
→SyoyyW ―Ry{YOj}ド=SW ―R{YOj}ド=すれド
【2】カ変の已然形コソや用法の遷移過程
《カ変》 汝が言へせコソ うち渡す 矢河枝如す 来入り参来れ〈久礼〉
[仁徳記歌63。歌意は『古事記歌謡全解』記歌63の段参照]
動詞語素K¥O¥に、YWRYと、活用語足YO¥が続く。
来れ=K¥O¥+YWRY+YO¥→K¥O¥YWRY{YOj}
¥O¥YWとY{YOj}は呼応潜顕する。後者では、{YOj}は顕存し、その直前のYは潜化する。これに呼応して、前者ではWは顕存し、他は潜化する。
→KjojyW ―Ry{YOj}=KW ―R{YOj}=くれ
§6 「人をヨく見ば猿にかモ似る」の「見」は已然形
【1】「人をヨく見ば猿にかモ似る」の「み」は已然形
(1)「人をヨく見者 猿にかモ似る」の「見者」は「未然形+ば」ではなく「已然形+ば」。
あな醜 賢しら食すト 酒飲まぬ 人をヨく見ば〈見者〉 猿にかモ似る[万3 ―344]
原文「見者猿二鴨似」の読みと解釈について、沢瀉久孝は『万葉集注釋巻第三』311頁で次のようにいう。「ミバ……ニムと訓む説とミレバ……ニルと訓む説と両説行はれてゐるが、「かも」の助詞は(中略)係詞として中間にある場合は「独可毛将宿」(中略)などの如く、いづれも疑問の意を含むもののみであるから、(中略)「よく見ば……似む」とあるべきである。よく見たならば猿にも似てゐるようか、といふのである。」沢瀉は「見者」を未然形だとするのである。
沢瀉はこの結論を導く際に、疑問の意を含む「かモ」の用例として万3 ―298は挙げたが、「足引キノ 山鳥ノ尾ノ 下垂り尾ノ 長永し夜を 一人かモ寝む」[万11 ―2802或本]は挙げなかった。この点に沢瀉説の不備がある。万2802或本の「かモ」は詠嘆のみを表し、疑問の意を含まない。
万2802或本の技法と歌意については『ちはやぶる・さねかづら』第14章で詳述したので本書では簡略に説明する。この歌には、「山」「鳥」「尾」「長」の四語がある。これら四語をこの順に含む記事が雄略紀五年条にある。「天皇、葛城山に狡猟す。霊鳥たちまちに来たる。(中略)尾長くして地に曳く。かつ嗚きつつ曰はく、「ゆメゆメ〈努力努力〉」と。」
万2802或本歌の「山」「鳥」「尾」「長」の四語を聞いた上代人なら、雄略紀五年条の記事により、「ゆメ」の語を想いおこす。「ゆメ」は肯定文では“きっと”“本当に”の意味になる。「小鈴 落ちにきト 宮人響む 里人モ ゆメ〈由米〉」[允恭記歌81]なら、“天皇位後継者の地位が不安定になったと、宮人たちは戦乱を起こした。このようなことをしていると、きっと民衆も(武器をもって暴動を起こすだろう)”の意である。
それで、「山鳥ノ尾ノ下垂り尾ノ長」と聞いた上代人は、「ゆメ=きっと」を思いつつ、その直後の「永し夜を一人かモ寝む」を解釈する。「永し夜を寝む」は“永眠するだろう”の意である。
よって万2802或本の大意は“きっと誰にも見送ってもらえず、一人で永眠することになるだろう”である。翌日の処刑執行を覚悟した人の辞世の歌である。この歌の「かモ」は、“悲しいことだ、理不尽なことだ”という詠嘆のみを表すのであって、疑問の意は含まない。
このように、「かモ」には詠嘆のみを表す用例もあるから、万344の「猿にかモ似る」は、既に見た事実についての詠嘆を表す語だとしてよい。したがって、「見者」は、順接確定条件を表す已然形だとしてよい。
大意。ああ醜い! 酒を飲まない人をよく見て思ったよ、猿に似ているなあ。
(2)「人をヨく見れば」では字余りになる。
『日本古典文学大系万葉集一』万344の段では、「人乎熟見者」を「人をよく見れば」と読んだ上で、頭注では「よくよく見ると」と訳す。これは、「見れば」を「已然形みれ+ば」と解し、順接確定条件を表すとしたのである。この解釈そのものは妥当である。しかし、字数が適合しない。第二句だから七音節でなくてはならないのに、「見者」を「みれば」と読めば、ひとをよくみれば」で字余りの八音節になる。
(3)「見」已然形が「み」になる遷移過程。
「見者」をどう読めばよいのか。
従来、「見」の已然形は「みれ」しかないと考えられている。だが、「見」の六活用形についての従来説は正しいとは限らない。序章で述べたように、従来は確実だとされていた終止形「みる」は誤りで、正しくは「み」である。「見」の未然・連用・終止は一音節「み」である。このことからすれば、已然形にも一音節の「み」が存在した可能性がある。
私は「見」の已然形は「み」と「みれ」、二つあると考える。「み」になる遷移過程を述べよう。「已然形み+ば」の語素構成は「已然形みれ+ば」と同一である。
見ば=MY+YRY+YO¥M+P∀→MYYRYYO¥MP∀
YYRYYでは、Rは、Yによって二重に双挟されている。このような音素配列なら、YがRを双挟潜化することがあってよい。
→MYYrYYO¥ ―{MP}∀=MYYYYO¥ ―B∀
母音部YYYYO¥では、四連続するYはひとまず顕存し、O¥は潜化する。
→MYYYYojば=MYYYYば→MyyyYば=MYば=み甲ば
このように、「見」の已然形は「み」になりうる。そうすると、万344の「見者」の「見」を已然形として“人をよく見ると”解しつつ、「人乎熟見者」を「ひトをヨくみば」と七音節で読むことができる。歌意に違和感はなく、字数に字余りはない。
§7 完了助動詞「ぬ」の已然形接続用法「ぬれ」の遷移過程
【1】完了助動詞「ぬ」の已然形接続用法「ぬれ」の遷移過程
[上代1] 已然形「ぬれ」直後の「ト」が濁音になる用例とその遷移過程。
妹が袖 別れて久に 成りぬれド〈奈里奴礼杼〉[万15 ―3604]
「成R」に、完了助動詞語素YYNと、WRWと、已然形接続用法の活用語足YO¥Mと、「ト」が続く。
成りぬれド=成R+YYN+WRW+YO¥M+TO
→なRYYNWRWYO¥ ―{MT}O
YO¥は融合する。{YO¥}の¥は潜化する。
→なRyYNWRW{YOj} ―DO
W{YOj}では、融合音{YOj}は顕存し、Wは潜化する。
→なRY ―NW ―Rw{YOj}ド=なりぬR{YOj}ド=なりぬれド
[上代2] 已然形「ぬれ」直後の「ト」が清音のままになる用例とその遷移過程。
奈良ノ都は 古りぬれト〈布里奴礼登〉[万17 ―3919]
古りぬれト→古りN+WRW+YO¥M+TO
→ふりYNWRW{YO¥}M ―TO→ふりNW ―Rw{YOj}mト
=ふりぬR{YOj}ト=ふりぬれト
【2】完了助動詞「ぬ」の語胴形WWら用法
花にか君が 移ロひぬらむ〈移奴良武〉[万7 ―1360]
「移ロP」に、YYNと、WRWと、「WWRA+む」が続く。
移ロひぬらむ=移ロP+YYN+WRW+WWRA+む
→うつロPYYNWRWWWRAむ
WRWWWRではRがWWWを双挟潜化する。
→うつロPyYNWRwwwRAむ=うつロPYNWRRAむ
→うつロひぬRrAむ=うつロひぬらむ
§8 助動詞「ず・にす」の已然形接続用法「ね」の遷移過程
[上代1] 助動詞「ず・にす」の已然形「ね」が濁音「ド」に上接する場合の遷移過程。
天ノ川 いと川波は 立たねドモ〈多多祢杼母〉[万8 ―1524]
「ねドモ」は、「ず・にす」の助動詞語素N¥に、已然形接続用法の活用語足YO¥Mと、「トモ」が続いたもの。
立たねドモ=立T+∀+N¥+YO¥M+TOモ
→たT∀N¥{YOj} ―{MT}Oモ
→たたNj{YOj} ―DOモ=たたねドモ
[上代2] 助動詞「ず・にす」の已然形「ね」が清音「ト」に上接する場合の遷移過程。
梅ノ花 何時は折らじト 厭はねト〈伊登波祢登〉 咲きノ盛りは 惜しきモノなり[万17 ―3904]
厭はねト=いトP+∀+N¥+YO¥M+TO
→いトP∀N¥{YOj}M ―TO→いトはNj{YOj}mト
=いトはN{YOj}ト=いとはねト