§1 平安語「見る」の終止形・連体形・已然形の遷移過程
《終止》 平安語終止形「見る」の語素構成は上代語終止形「見」と同一である。
見る=MY+YRY+W→MYYRYW
平安語では、父音素にYYRYWが続く場合、まず、母音部YWで、後方にあるWは顕存し、R直後のYは潜化する。
Rは、直後のYが潜化したので、双挟潜化されずに顕存する。
→MYY ―RyW
母音部YYでは、後のYは顕存し、前のYは潜化する。
→MyY ―RW=MY ―RW=みる
《連体》 奥山の いはかきもみぢ ちりぬベし てる日の光 みる時なくて
[古今和歌集5 ―282]
見る=MY+YRY+AU→MYYRYAU→MyY ―RyaU
=MY ―RU=みる
《已然》 月みれば ちぢに ものこそ かなしけれ[古今和歌集4 ―193]
見れば=MY+YRY+YO¥M+P∀→MYYRY{YO¥}ば
→MyY ―Ry{YOj}ば→MY ―R{YOj}ば=みれば
§2 平安語「居る」の終止形・連体形・已然形の遷移過程
《終止》 たてばたつ ゐればまたゐる ふく風と 波とは思ふ どちにやあるらむ[土佐日記1月15日]
居る=WY+YRY+W→WYYRYW
平安語では、WYYRYWの遷移過程では、初頭のWはあたかも父音素であるかのように見なされ、末尾で母音素性を発揮するWとは異なる音素のように扱われる。それで、WYYRYWは、平安語終止形「見る=MYYRYW」同じように遷移する。
→WyY ―RyW=WY ―RW=ゐる
《連体》 居る=WY+YRY+AU→WYYRYAU
平安語のWYYでは、Wはあたかも父音素であるかのように見なされる。それで、WYYRYWは、平安語連体形「見る=MYYRYAU」と同じように遷移する。
→WyY ―RyaU=WY ―RU=ゐる
《已然》 居れば=WY+YRY+YO¥M+P∀→WYYRYYO¥ば
→WYYRY{YO¥}ば→WyY ―Ry{YOj}ば
→WY ―R{YOj}ば=ゐれば