§1 「吾が家・吾ぎ家」と「吾ぎ妹」
【1】「が+家」が「がへ」にも「ぎへ」にもなる理由
[上代1] 吾がへ〈和何弊〉ノ園に 梅が花咲く[万5 ―837]
[上代2] 吾ぎへ〈和岐幣〉ノ方よ 雲居立ち来モ[景行記歌32]
助詞「が」はG∀で、「家」は「Yへ」である。∀Yは二通りに遷移する。
[上代1] 母音部∀Yで、∀は顕存し、Yは潜化する。
が家→G∀+Yへ→G∀Yへ→G∀yへ=G∀へ=がへ
[上代2] ∀は潜化し、Yは顕存する。
ぎ家→G∀Yへ→GαYへ=GYへ=ぎ甲へ
【2】「が+妹」が「がも」にはならず「ぎも」になる理由
嶮しき山モ 吾ぎもこ〈芸毛古〉ト 二人越ゆれば 安蓆かモ
[仁徳紀40年 紀歌61]
いまだ言はずて 明ケにけり 吾ぎも〈蟻慕〉[継体紀7年 紀歌96]
「妹」の本質音は「YYも」だと推定する。
が+妹→G∀+YYも→G∀YYも
母音部∀YYでは、二連続するYはひとまず顕存し、∀は潜化する。
→GαYYも=GYYも→GyYも=GYも=ぎ甲も
§2 「心は思∧ド」「吾が思ふ」「吾が面て」で「お」が脱落する理由
【1】「心は思∧ド」「吾が思ふ」「吾が面て」では「お」が脱落する
助詞「は」「が」に「思ふ」「面」が続いて縮約すると、「お」が脱落して「はモふ」「がモふ」「がモ」になる。
い切らむト 心は思∧ド〈波母閉杼〉 い取らむト 心は思∧ド〈波母閉杼〉[応神記歌51]
真玉如す 吾が思ふ〈賀母布〉妹 鏡如す 吾が思ふ〈賀母布〉妻
[允恭記歌89]
若くありきト 吾が思はなく〈阿我謨婆儺倶〉に
[斉明紀4年 紀歌117]
吾が面て〈我母弖〉ノ 忘れも時は[万20 ―4367防人歌]
【2】「∀+ΩM¥O¥」ならΩは潜化する
(1)「は思」「が思」の遷移過程。
助詞「は」「が」の母音部は∀である。「思ふ」は「ΩM¥O¥ふ」である。
は思∧ド=P∀+ΩM¥O¥∧ド→P∀ΩM¥O¥∧ド
∀Ωと¥O¥が呼応潜顕する(惑遊呼応潜顕)。¥O¥ではOは顕存し、¥は二つとも潜化する。これに呼応して、∀Ωでは∀は顕存し、Ωは潜化する。
→P∀ωMjOj∧ド=P∀MO∧ド=はモ乙∧ド
が思ふ=G∀+ΩM¥O¥ふ→G∀ΩM¥O¥ふ→G∀ωMjOjふ
=G∀MOふ=がモ乙ふ
(2)「が面」の遷移過程。
「面」の第二音素節母音部が¥O¥であることは第20章で述べた。「面」第二音素節はM¥O¥であり、「思ふ」第二音素節と同一である。
「思ふ」は「面」の派生語だと考える。「思ふ=ΩM¥O¥ふ」は、“人の面(おモ)を心に描く”が原義である。
助詞「が」に、「面て」が続くと次のように遷移する。
が面て=G∀+ΩM¥O¥+て→G∀ΩM¥O¥て→G∀ωMjOjて
→G∀MOて=がモ乙て