【1】補助動詞「なす」「ノす」の用例
近畿語では「なす」になり、東方語(近畿の吉野の言語を含む)では「ノす」になる(東歌万14 ―3358或本などでは「なす」にもなる)補助動詞がある。
「なす」「ノす」は名詞に続いて“……のように”“……のようだ”の意味を添え、動詞連体形に続いて“……するように”の意味を添える。
[近畿]《連用》 つてに用法。 矢河枝なす〈那須〉 来入り参来れ
[仁徳記歌63]
《終止》 木幡ノ道に 遇はしし媛女 (中略) 歯並みは 椎菱なす〈那須〉
[応神記歌42]
[東方]《連用》 つてに用法。 波にあふノす〈能須〉 逢へる君かモ
[万14 ―3413]
《終止》 大雀 佩かせる大刀 本剣 末増ゆ 冬木ノす〈能須〉 柄が下 木ノ鞘鞘
[[応神記歌47。作者は吉野の国主たち。吉野は近畿ではあるが東方語圏だと考える]
【2】「なす」「ノす」の動詞語素と語素構成
「なす」「ノす」について、『時代別国語大辞典上代編』の「なす」【如】の項は「似ル・ノス(東国語形)・ナスもioaの母交替による同義語であろう」という。私はこの説には同意できない。「似」の動詞語素は、上甲段活用だとすればNYであり、上乙段活用だとすればNWYである。いずれにしても、A・∀・O・Ωを含まないから、「似」が「あ」段・「オ」段に交替することはない。「似る」は「なす」「ノす」とは異源語である。
「なす」「ノす」の語素構成について次のとおり考える。
「なす」と「ノす」は同一語であり、その動詞語素はNAOである。
「なす」「ノす」の語素構成は、語素NAOに、段付加語素SUと、活用語足が続いたもの。「なす」「ノす」の活用語足は、動詞と同一である。
「なす」「ノす」をまとめて「如す」と表記する。
【3】「如す」の終止形・連用形の遷移過程
[近畿]《連用》 つてに用法。 如す=NOA+SU+¥¥→NOASU¥¥
母音部OAでは、近畿語完母潜顕法則により、Oは潜化し、Aは顕存する。
母音部U¥¥では、完母音素Uは顕存し、¥¥は潜化する。
→NoASUjj=NASU=なす
[近畿]《終止》 如す=NOA+SU+W→NoASUw=NASU=なす
[東方]《連用》 つてに用法。 如す=NOA+SU+¥¥→NOASU¥¥
東方語では、母音部OAで、Oが顕存してAが潜化することがある。
→NOaSUjj=NOSU=ノ乙す