§1 四段動詞「欲る」 POR¥
四段動詞「欲る」がある。
《連用》 つてに用法。 此くや 恋ヒむモ 君が目を欲り〈報梨〉
[斉明紀7年 紀歌123]
《連体》 玉ならば 吾が欲る〈褒屡〉玉ノ 鮑白玉
[武烈即位前 紀歌92]
「欲る」の動詞語素はPOR¥だと推定する。
《連用》 つてに用法。 欲り=POR¥+¥¥→POR¥¥¥
→PORjj¥=POR¥=ほり
《連体》 欲る=欲R¥+AU→POR¥AU→PORjaU=PORU=ほる
§2 サ変動詞「欲りす」
【1】上代語のサ変動詞「欲りす」
《未然》 ずむ用法。 汝が目欲りせむ〈保里勢牟〉[万14 ―3383東歌]
サ変「欲りす」は、動詞「欲る」の語素POR¥に、サ変動詞「為」が続いたもの。
欲りせむ=POR¥+SYOY+YWRY+∀+む
→POR¥SYOYYwrY∀む→PO ―R¥ ―S{YOY}YY∀む
→ほりS{YOY}yyαむ=ほりS{YOY}む=ほりせむ
【2】現代語のサ変動詞「欲する」が促音便「ほっする」になる遷移過程
《終止》 欲する=POR¥+SYOY+YWRY+W
→POR¥SYOYYWRYW
YOYYWとYWは呼応潜顕して、共にWになる。後者ではWは顕存し、Yは潜化する。これに呼応して、前者では末尾のWのみが顕存し、他は潜化する。
→POR¥SyoyyW ―RyW=POR¥SWる
母音部OにR¥Sが続く場合、Oは¥に父音素性を発揮させる。
R¥SWでは、R¥Sが父音部になり、Wは母音部になる。父音部R¥Sでは、前方にあるRと¥が潜化する。これによって促音便が形成される。
→PO´rjSWる=ほっする
§3 「見が欲し国」の「欲し」は形容源詞
吾が見が欲し〈本斯〉国は葛城[仁徳記歌58]
この「欲し」は形容詞の終止形の形でありながら後続の名詞を修飾するから、形容源詞である。形容源詞「欲し」の語素構成は、動詞「欲る」の語素POR¥に形容源化語素S¥が続いたものである。
《形容源詞》 欲し=POR¥+S¥→POR¥S¥
母音部OにR¥Sが続く場合、Oは¥に父音素性を発揮させる。父音素性を発揮する音素がR・¥・S三つ続くので、RはOに付着して音素節PORを形成する。
→POR ―¥S¥→POr ―¥S¥=PO ―¥S¥
父音部¥Sでは、¥は潜化し、父音素Sは顕存する。
→PO ―jS¥=PO ―S¥=ほし
§4 形容詞「欲し」
【1】シク活用形容詞「欲し」の遷移過程
《連用》 いや見が欲しく〈保之久〉[万18 ―4111]
連用形「欲しく」は、動詞語素POR¥に、形容源化語素S¥と、活用語足KWUが続いたものである。
欲しく=POR¥+S¥+KWU→POR¥S¥KwU
母音部OはR¥Sの¥に父音素性を発揮させる。
→POR ―¥S¥KU→POr ―jS¥KU=PO ―S¥KU=ほしく
【2】シク活用「思ほしき」の語素構成と遷移過程
思ほしき〈於母保之伎〉 言伝遣らず[万17 ―3962]
「思ほし」は“心に望んでいる”の意のシク活用形容詞である。語素構成は、動詞語素「思P」に、「欲し」の動詞語素POR¥と、S¥と、KYΩYが続いたものである。
思欲しき=思P+POR¥+S¥+KYΩY→思PPOR¥S¥KYωY
→思PpOR¥S¥KYY→思POR ―¥S¥KyY
→思POr ―jS¥KY=思PO ―S¥KY=おモほしき甲
【3】シク形容¥群
語幹末尾音素節の母音部が¥である形容詞はシク活用する。
語幹末尾母音部が¥である形容詞・形容源詞をシク形容¥群と呼ぶ。