§1 形容源詞「おなじ・おやじ」
【1】形容源詞「おなじ」「おやじ」の用例
[上代1] 君がむた 行かましモノを おなじ〈於奈自〉コト 後れて居れド 良きコトモ無し[万15 ―3773]
[上代2] 橘は 己が枝枝 成れれドモ 玉に貫く時 おやじ〈於野児〉緒に貫く[天智紀10年 紀歌125]
【2】「同じ」が「おやじ」とも「おなじ」とも読まれる理由
形容源詞「おなじ」の語幹と形容源詞「おやじ」の語幹は同一語で、OYNYAM¥だと推定する。
[上代1] 同じ=OYNYAM¥+S¥→OYNYAM¥S¥
OYNYAでは、NがYに双挟潜化される場合とされない場合とがある。Nが双挟潜化されなければ、Nの直前で音素節が分離し、「おなじ」になる。
→OY ―NYAM¥S¥→Oy ―NyAM¥S¥=O ―NAM¥S¥
M・Sに挟まれた¥は潜化する。MSは融合する。
→おな ―MjS¥=おな{MS}¥=おなZ¥=おなじ
[上代2] 同じ→OYNYAM¥S¥
NはYに双挟潜化される。YYAは音素節を形成する。
→OYnYAMjS¥→O ―YYA ―Z¥→おYyAじ=おYAじ=おやじ
§2 シク活用形容詞連体形「おなじき」の遷移過程
【1】シク活用形容詞「おなじ」の用例
《連体》 月見れば おなじき〈於奈自伎〉里を 心隔てつ[万18 ―4076]
【2】シク活用形容詞連体形「おなじき」の遷移過程
「おなじき」の語素構成は語幹OYNYAM¥に、形容源化語素S¥と、活用語足KYΩYが続いたものである。
同じき=OYNYAM¥+S¥+KYΩY→OY ―NYAM¥S¥KYωY
M直後の¥はS¥Kの¥に母音素性を発揮させる。
M・Sに挟まれた¥は潜化する。MSは融合する。
→Oy ―NyAM¥S¥ ―KyY→O ―NAMjS¥ ―KY
→O ―NA{MS}¥ ―KY→おなZ¥ ―KY=おなじき甲
形容詞「同じ」は、語幹末尾母音部が¥だから、シク形容¥群に属する。