第13章 体言を表す動詞連用形「行き」「死に」「見」「居」「廻」「恋ヒ」の遷移過程

動詞連用形には、その動詞を体言化する用法がある。その場合の活用語足はYだと推定する。
《四段》 君が行き〈由伎〉 日長くなりぬ[万5 ―867]
行き=ゆK+Y→ゆKY=ゆき甲
《ナ変》 死に〈志尓〉ノ大王[仏足石歌20]
死に=死N+WRW+Y→しNWRWY
NWRWYではWはRを双挟潜化する。
→しNWrWY=しNWWY
母音部WWYでは、WYは融合する。
→しNW{WY}→しNw{WY}=しN{WY}
{WY}は「イ乙・い丙」を形成する。
=しに
《上甲》 吾が見〈美〉が欲し国は 葛城[仁徳記歌58]
見=MY+YRY+Y→MYYRYY
MYYR直後の母類音素群はYYである。この場合、YはRを双挟潜化する。
→MYYrYY=MYYYY→MyyyY=MY=み甲
《上乙》 吾家ノ方よ 雲居〈韋〉立ち来モ「景行記歌32」
「雲居」の「居」は上乙段動詞「居」の連用形で、体言相当意味を表す。「雲居」の原義は“(見る角度の)低い所に居る雲”(『古事記歌謡全解』記歌32の段参照)。
居=WY+YRY+Y→WYYRYY
WYYR直後の母類音素群に複数の完母音素もYO¥もWWもないのでYはRを双挟潜化する。
→WYYrYY=WYYYY
Wは父音部になり、YYYYは母音部になる。
→WyyyY=WY=ゐ
《上乙》 廻=MWY+YRY+Y→MWYYRYY
WYYR直後の母類音素群に複数の完母音素もYO¥もWWもないのでYはRを双挟潜化する。
→MWYYrYY→M{WY}YYY→M{WY}yyy=M{WY}=ミ乙
《上二》 近畿語では「恋ヒ乙」になる。
うら恋ヒ〈呉悲〉すなり[万17 ―3973]
恋ヒ=恋PW+YRY+Y→こPWYRYY
WYRYYでは、YはRを双挟潜化する。WYは融合する。
こPWYrYY=こPWYYY→こP{WY}YY
→こP{WY}yy=こP{WY}=こヒ乙
[東方] 「恋ひ甲」になる。
吾が恋ひ甲〈古比〉を[万20 ―4366防人歌]
「こPWYYY」になるまでは近畿語と同様。その後、三連続するYはひとまず顕存し、Wは潜化する。
恋ひ→こPWYYY→こPwYYY→こPyyY=こPY=こひ甲